
DX人材がいない会社は何から始める?業務を分解する判断手順
DX人材がいない会社は、採用やツール選びの前に業務を工程ごとに分け、困りごとと原因、優先順位を整理しましょう。現状把握から小さな試行までの手順を解説します。
こんにちは、平岡です。DX人材がいない会社は、採用や育成を急ぐ前に、まず改善したい業務を一つ選び、始まりから完了までの工程を書き出すのがおすすめです。人手が足りない問題と、作業手順や情報の受け渡しに原因がある問題を分けると、社内で育てるのか、採用するのか、外部の支援を使うのかを具体的に検討できます。
先に業務を工程に分けて課題と優先順位を見える形にし、その後で必要な人材や支援を決めます。
DX人材がいないとき、採用より先に業務を見直す

DXを進める担当者が決まらないと、採用や研修、ツールの比較から始めたくなります。しかし、何を変えるための人材なのかが曖昧なままでは、必要な役割やスキルも定まりません。請求書の転記に時間がかかるのか、受注後の確認が滞るのか。まず業務上の困りごとを具体化することで、人材不足と業務の進め方に起因する問題を切り分けられます。
人を増やしても、重複した入力や承認待ちがそのまま残れば、解決したい問題に届かないことがあります。一方で、工程を整理した結果、社内でシステムを管理する人や、部門間の調整を担う人が必要だと分かる場合もあります。採用や育成を否定するのではなく、業務の課題を確認してから必要な役割を定めるのが出発点です。
現状と課題を関係者で共有する際は、IPAの「DX推進指標」も検討材料になります。これは経営者や社内関係者がDXの現状・課題の認識を共有し、アクションにつなげるためのツールとして案内されています。設問への回答では、現在のレベルと3年後の目標レベルを、レベル0からレベル5までの6段階で評価します。
IPAは、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などの関係者が集まり、議論しながら記入する方法を案内しています。自己診断結果をIPAへ提出すると、他社・業界と比較できるベンチマークレポートを取得できます。個社の診断結果は外部公表されません。なお、2026年9月18日から提出方法はWebフォームに変更され、従来のExcel提出受付は終了しています。
担当者を決める前に、困っている業務と発生場面を一つ挙げます。課題が業務手順にあるのか、専門知識や調整役の不足にあるのかを分けると、次の検討が具体的になります。
改善の目的と対象範囲を決める

最初に決めるのは、ツール名ではなく改善後に実現したい状態です。「営業事務を効率化する」だけでは、どの作業を変えるのか判断できません。「受注内容を営業担当から事務担当へ渡す際の確認漏れを減らす」のように、困りごとと場面をセットで書きます。
次に対象範囲を絞ります。受注から請求までを一度に扱うのではなく、まずは受注内容の受付から社内登録まで、と始点と終点を決めます。関係する営業担当、事務担当、承認者を挙げ、対象外にする工程も明記すると、話し合いが広がりすぎません。
目的を決めるときは、現状で何が起きているかを根拠にします。確認漏れが気になるなら、実際にどの書類の、どの項目が、どの受け渡しで抜けるのかを聞き取ります。件数や時間をすぐに集計できない場合も、発生した場面や担当者を記録しておけば、後で改善の前後を比べる基準になります。
目的は「どの困りごとを減らすか」、範囲は「どの作業からどこまでか」で記述します。関係者と対象外の工程も決めておくと、現状把握の途中で検討範囲が膨らみにくくなります。
業務を工程に分け、実際の流れを可視化する

対象業務が決まったら、業務の始まりから完了までを順に書きます。たとえば受注処理なら、依頼を受ける、内容を確認する、基幹システムへ入力する、承認を得る、担当部署へ引き渡す、といった具合です。作業だけでなく、使う書類やデータ、次の担当者に渡す情報も並べます。
中小機構のJ-Net21は、業務フローを業務プロセスの見える化に使い、作成によって業務のボトルネックが見えることがあると説明しています。初めから全工程を細かく描くのではなく、まず業務の概要をまとめ、その後、詰まりが見られる部分を詳細化する進め方です。
図にする際は、企業・部門・担当者ごとに枠を設ける方法があります。誰がどの作業を担うかが分かり、情報を渡す箇所や、判断が止まる箇所も追いやすくなります。手順書に書かれた標準の流れだけでなく、実際に担当者へ聞き、例外処理や口頭で補っている作業も書き加えます。
J-Net21は、現状業務フローを作る段階では、解決策の検討を後回しにし、現状プロセスのモデル化と問題点の洗い出しに専念する方法を示しています。書きながら「この作業をなくそう」と決めず、まず現場で起きている順序を記録するのがポイントです。
業務名:受注内容の社内登録
始点:顧客から注文を受ける
工程:受付 → 内容確認 → システム入力 → 承認 → 担当部署へ引き渡し
担当:営業担当 → 営業事務 → 上長 → 製造担当
受け渡す情報:注文書、納期、数量、特記事項
例外:注文書の記載不足、納期変更
工程ごとに課題と原因を切り分ける

業務フローができたら、困りごとが起きる工程に印を付けます。手作業で同じ情報を転記する、承認者の確認待ちが続く、複数人が同じ項目をチェックする、といった事象を工程ごとに記録します。「大変」「時間がかかる」といった感想だけで終わらせず、どの作業で、どんな状態が、どのくらいの頻度で起きるのかを聞き取ります。
困りごとと原因を分けて記録する
表面上の症状と原因は、分けて書きます。たとえば「入力後の修正が多い」は症状です。原因を探るには、入力元の注文書に必要事項がそろっているか、担当者ごとに作業方法が異ならないか、入力後のチェック方法があるかを前後の工程まで確認します。
J-Net21は、業務フロー図の作成前に考える事務ミスの原因例として、作業方法の違い、チェック機能の不足、例外処理の頻発、担当者の習熟度を挙げています。同じミスに見えても、記入方法のばらつきが原因なのか、例外時の対応が決まっていないのかで、検討する対策は変わります。
同じ作業をする担当者をできる限り集めることも有効です。J-Net21は、作業方法の標準化や習熟の支援につながると説明しています。ベテラン一人の説明だけでフローを作るのではなく、担当者間で手順が違う箇所を出し合うと、例外や属人化している判断を見つけやすくなります。
現状フローを描く途中でツールや担当変更を決めると、実際の作業や例外処理を見落とすおそれがあります。まず症状の発生工程と前後の情報の流れを記録し、原因の候補を分けてから対策を検討します。
どの業務から着手するか優先順位を決める

候補が複数ある場合は、業務への影響、発生頻度、現場の負担、実行しやすさを横に並べて比較します。たとえば、頻繁に起きる軽微な転記ミスと、発生は少ないものの納期に影響する承認待ちでは、優先する理由が異なります。単に「一番困っている」という声だけで決めず、目的に照らして判断します。
比較表は、各項目を高・中・低などの同じ基準で記録すると、候補間の違いを話し合いやすくなります。影響の大きさは、顧客対応や後工程への影響で判断。頻度は、発生記録や担当者への聞き取りを根拠にします。実行しやすさは、対象範囲を限定できるか、必要な関係者が参加できるかで見立てます。
経営と現場で優先順位が異なる場合
経営側は全社的な影響を重く見て、現場は毎日の作業負担を先に解消したいと考えることがあります。意見が割れたら、最初に定めた改善目的に戻り、各候補の課題を示す記録を並べます。経営課題との関連が強い候補を選ぶのか、現場で試しやすい候補から始めるのか、選定理由を関係者間で共有します。
ここで重要なのは、全員の希望が一致することよりも、なぜその業務を先に扱うかを説明できることです。影響が大きい一方で実行が難しい候補は、まず調査や関係者調整を行う選択肢もあります。すぐ試せる小さな改善と、中長期で取り組む課題を分けておけば、目先の負担軽減と経営上の課題を両立して検討できます。
対応策を選び、社内外の役割を決める

原因が見えてから、工程の廃止・結合・順序の交換・簡素化を検討します。J-Net21が示す業務改善の4原則は「排除・結合・交換・簡素化」です。たとえば、同じ内容を別の台帳にも記入しているなら、作業をなくせないか、入力先をまとめられないかを考えます。確認が二重になっているなら、必要なチェックを残しながら工程や役割を見直します。
工程を見直しても人の手で繰り返す作業が残る場合は、デジタル化を検討します。ただし、手順や入力項目が担当者ごとに異なるままツールへ移すと、ばらつきを残すことがあります。2024年版中小企業白書は、デジタル化の取組が進む企業で、適切なITツール選定と業務の棚卸しを重視する傾向を示しています。業務の整理とツール選びを並行させず、まず対象作業と必要な情報を明らかにします。
対策が決まったら、社内の担当者が持つ作業と、外部支援に依頼したい作業を分けます。現場の手順を決める、データ項目を整理する、システムの設定を行う、といった作業ごとに担当を仮置きすると、必要な知識が見えます。既存の社員を育成できる範囲なのか、専門性を持つ人の採用が必要なのか、外部に一部を依頼すべきなのかを、業務と作業内容に沿って判断します。
改善策が決まった後は、担当者ごとの作業内容と作業量を見直します。J-Net21は、改善後の業務フロー図を作成して共有する手順を示しています。変更後の図に担当者、引き渡す情報、例外時の対応を書き、関係者が同じ手順で動ける状態にします。
小さく試し、見直す観点を揃える

改善策は対象業務や関係者を限定して試します。受注処理全体を変えるのではなく、特定の商品群や一つのチームの登録作業から始める方法です。試行前に、何を比べるかを決めておきます。入力の修正回数、承認待ちが発生した箇所、担当者が迷った手順など、目的に対応する観点を選びます。
試行中は、結果だけでなく、想定外の手戻りや例外も記録します。確認漏れが減っても入力に時間がかかるようになったなら、改善目的との兼ね合いを見ます。期待した変化がなければ、現場の努力不足と決めつけず、工程の分解や原因の見立てが正しかったか、対策が発生箇所に届いているかを見直します。
IPAはDX推進指標の自己診断を年次で継続し、短期で確認する指標はマネジメントサイクルに組み込む方法を案内しています。業務単位の試行でも、日々・週ごとに見る項目と、一定の期間を経て振り返る項目を分けると、短期の変化と継続的な進捗を混同しにくくなります。
対象業務:受注内容の社内登録
試す変更:受付時に必須項目をそろえる
事前に見る項目:入力修正、承認待ち、例外処理
記録担当:営業事務の担当者
振り返り:変化があった点、残った困りごと、次の対応
試行前に決めた観点で結果と例外を記録します。変化が乏しいときは、業務フロー、原因の見立て、対策の順に戻って検討し、必要なら範囲を絞り直します。
まとめ
DX人材がいないときは、採用やツール選びを急ぐ前に、改善したい業務を一つ選び、工程、担当者、受け渡す情報を書き出します。症状と原因を分け、影響や頻度、実行しやすさを比べると、着手する業務と必要な役割を説明しやすくなります。
次の一歩は、対象業務を一つ決め、関係者と一緒に現状の工程を書き出すことです。
その場で改善案を決める必要はありません。まず受付から完了までの流れと、困りごとが起きる工程を共有してください。業務の課題が見えた段階で、社内で担う役割、育成や採用で補う役割、外部に頼る作業を具体化できます。
参考・出典
- IPAの「DX推進指標」は2026年9月18日に提出方法がWebフォームへ変更され、従来のExcel提出受付は終了した。 — https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/about.html
- 中小機構のJ-Net21は、業務フローを業務プロセスの見える化に使い、作成によって業務のボトルネックが見えることがあると説明している。 — https://j-net21.smrj.go.jp/tasuku/case17.html
- J-Net21は、業務フロー図の作成前に、作業方法の違い、チェック機能の不足、例外処理の頻発、担当者の習熟度などを事務ミスの原因例として挙げ… — https://j-net21.smrj.go.jp/solution/qa/efficiency/Q0954.html
- 中小企業庁の2024年版中小企業白書は、デジタル化の取組が進む企業では、適切なITツール選定と業務の棚卸しを重視する傾向を示している。 — https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/chusho/b2_3_2.html



